ひろしまのいろ

平和記念公園に訪れてスケッチをしたとき、黒色を使っていた線が自然と赤色に変わりました。その理由を深く探ろうとすればするほど意味を決めつけてしまうようで、感覚的にこの色しか選べなかったということを今でも大事にしています。
その数日後、おりづるタワーにのぼって眺めた景色が、僕のいまの取り組みの起点になりました。
はじめて8月6日の式典に行ったのは、いまから約10年前のことでした。真夏の早朝、熱中症になりそうなほどの酷暑の中、公園はさまざまなイデオロギーが交錯する場所となっていて、時折、目の前の風景が真っ白に染まるような感覚を覚えました。ホワイトアウトは気象現象を指す言葉ですが、それに近い印象を受けました。
以来、8月6日に平和記念公園を訪れることは避けていましたが、広島でのスケッチを始めたことで2019年の夏に改めて訪れました。
その日も相変わらずの猛暑でしたが、雨が降っていたことを覚えています。雨の中でも、以前と変わらない空気が漂っていました。平和の灯火の前で式典を眺めていると、火の勢いが普段より強いのか、雨が灯火に当たってバチバチと音を立てていました。まるで何かの演出のようでしたが、その意味を推し量ることはできませんでした。式典が終わり、公園内をしばらく歩いたあと、再びおりづるタワーに登って風景を描きました。それまでは、スナップショットのように狭い範囲を切り取っていたのが、このときは平和記念公園全体を捉えようとしていました。
平和公園に続く大通りは、大田川放水路・天満川・本川・元安川・京橋川の5つの川を横切り、供木運動で植樹された木々によって緑で彩られています。その木々の隙間からはいろんなモニュメントが見え隠れして、つぶさに見ていくと平和を祈念した場所としての想いの深さを感じます。こうした構造は、平和公園や平和大通りに特有の話かと考えられるかもしれませんが、きっと広島市全体をゆるやかに包み込んでいるのだと思います。
大昔から広島を象徴する河川、草木も生えないと言われた土地の緑、僕には理由を決められない赤。スケッチの背景に使用する白色は、当初は式典での記憶と結びついていましたが、再開発の仮囲いや国際会議で覆われた平和公園を思うと、今では違う意味を帯びつつあるように思えます。
供木運動がはじまる前から瞑想し続けている裸婦像は、周辺の色彩の変化を感じ取ることができるのだろうか。ひろしまの木々を眺めながら、たまにそんなことを想像しています。

撮影:橋本健佑
ひろしまスケッチMAP 2025
「ひろしまスケッチMAP2025」は、広島市街にある4つの店舗にそれぞれ置いてある手嶋勇気の作品の鑑賞し、設置してあるQRコードを読み取ることで作品に関連したエッセイを読むことが出来ます。店舗を巡りながらこれまでに描かれた場所や活動の軌跡をたのしんで頂けると幸いです。
エッセイ
ひろしまのいろ ー PLACE
coming soon ー (本と自由)
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